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【又吉直樹:劇場】ネタバレ感想「火花」より断然凄い点とは?

又吉直樹の「劇場」読みました。

早速感想を書いていこうと思います。 

 

 

又吉直樹の「劇場」の感想


とにかく読む前は本当にもう、どーなの!!!というくらい、まあ期待はするわ不安を感じるわで。


結局Amazonで注文しましたが、届いたのは今日の昼で一日もやもやしてました。
田中慎弥の新作だってこんなにドギマギしません。

とにかくですね、はじめは本当に、心配で。
だって、あの大騒ぎの後全然書けなくなってたし、もう本当に可哀想で。ほっといてあげて!って思った。
大体あれだけの騒ぎの後の2作目で、ふつうに良いもの書ける人なんているわけないって状況ですよ。





ところが、いたんだな(笑)。

あの騒ぎ、この世間の期待感に応えられる、すごい作家がいたんです。
又吉直樹さんです。

火花と同等どころか修正してきた又吉直樹「劇場」

 

「火花」、非常に優れた小説ですけど、完ぺきな作品だとは思っていませんでした。
冗長な描写が多くて退屈だったシーンもありました。

又吉の書く小説のジャンルは純文学ですから、冗長はつきものではありますが、火花はもう少しその冗長さが素人臭かった部分があったんですよね。
ほんの、たまにですけどね。説明的なシーンも多かった気がします。

それから、ある程度自分の事を書いているな、というテーマだった。
お笑い芸人だし。
小説を初めて書く人って、やっぱり自分の事を書きますから、私小説的ですね。


今回はそれらの部分を修正してきましたね。


まず、素人臭さはほとんどなかったです。
こなれている、という感じでもなかった。とにかくここがこう、というディテールの凸凹さがいい意味でなくて、しつこさもなくバランスがよく、しかもその良心的な様はキープしていた。

 

まあ何がすごいと言って、とにかく読みやすく面白いところです。

主人公は見事なカス男。
初めは私小説っぽいというか、主人公に又吉を重ねて読み始めるんだけど、次第にそのカスっぷりから、又吉先生との重なりが薄れていって、「永田」というキャラが独自の魅力を放ち始めるんです。

とはいっても、又吉が以前に自分でしゃべっていたカスエピソードが採用されたりもしたので、又吉ってああ見えてカスなのかも知れません。

 

沙希ちゃんがとにかく魅力的

 

永田の恋人役の「沙希ちゃん」がとにかく魅力的です。

男性が描く女性像って、どうしようもないものが多いと思いませんか?
男が描くととにかくその男の身勝手な妄想みたいになることが多いんで、全然面白くないことがすごく多いです。
封建的になることが多いですね。

宮崎駿の「風立ちぬ」の菜穂子みたいな感じとか。
もしくは、「紅の豚」のフィオみたいなね。

どっちも悪い意味で嫌いな女性像ですよ。
(まあ、私はどっちの作品もめちゃくちゃ大好きなんですけどね←なんなんだ)

反対に、女性から人気のある女性キャラといえば、
「もののけ姫」の「えぼし様」とか、ナウシカとかでしょう。
私も大好きで憧れます。

で、この「劇場」の沙希ちゃんはと言えば、どちらかと言えば「フィオ」みたいなタイプなんです。
天真爛漫で、屈託がなく、頭は悪いけど(フィオとは違って)優しくてかわいらしい。

男性がいかにも好みそうな封建的な女性にありがちなタイプ。
嫌いなタイプになってもおかしくないんです。

しかしすごいな、と思うのは、沙希ちゃんが初めから少し痛い部分を持っているところ。ちょっと残念なんですよね。


それを、永田を通して絶妙なバランスで見せているところです。

沙希ちゃんが自分の部屋を「おしゃれ」と読んだり、永田が転がり込んできて、沙希ちゃんのクリップボードの写真をファイルにしまわせたりするというエピソードが絶妙な重さで伏線になっているわけ。

これはすごいです。

又吉が女性に対して封建的な理想主義者じゃないって分かってうれしいです。

 

又吉には「すべてが見えていて、語らない」部分がある

 

又吉は、この小説に描かれている人物や世界の隅から隅までの感情や現象を把握しコントロールしているのだな、と思いました。
作家なんだから当たり前だと思われがちですけど、全てを分かってバランスよく配分してゆくという作業は実は作家本人でもできない人が多いと言われています。

読んでいても分かりますよね。

例えば、私の大好きな田中慎弥はそういうの全然分かってないと思います。
てか、そもそも彼の小説は「配分」されてない小説ですよ。

理性とは違った脳の機能を使って書いている、という感じです。
純文学作家にそういう人は多いです。

例えば、角田光代などは逆に理性ですべてをコントロールした作家のような気がします。
完全な客観、と言ってもいいのかも知れません。

朝井リョウなどもその最たるものです。
配分の神と言ってもいいかもしれません。
余りにも仕掛けと構成がうますぎて引くくらいです。

ただ、朝井リョウなどは本人も言っていますが、「全部説明しちゃう」んですね。
余白を残さないんですね。

又吉も同じように現象や感情を完全に分かっていて配分して書いているな、と思います。この作品の中で又吉直樹は神さまで、あらゆる角度から完ぺきに物語とキャラクターを作り上げてるんです。

しかも、「純文学」の枠から決してはみ出さない、丁寧で美しい文体は圧巻と言えるでしょう。

しかも、やりすぎない。


又吉の作品は、「火花」には余白がなくやりすぎているところもあると思いましたが、「劇場」にはほとんどそれがなかった。

完全に掌握して描いているんだけども、いい意味で抜けた感じもするんですよ。
小説としての完成度がとにかく高いですよね。

 

又吉直樹「劇場」のオススメ度は?

 

この作品の魅力は、とにかく「面白い」というところですね。
ストーリー自体は、本当に普通です。全て見たことがある。

だけどもとにかく、「この後どうなるんだろう?」と読み進めてしまうわけです。
これだけふつうのストーリーで、構成も普通なのにそれができている小説を私はあまり知らない。

なので、オススメ度はかなり高いです!!

この本が火花に比べて全然だめだった、という人がいたら意見を聞きたいです。
コメントください。

又吉の小説はそもそもダメだ、という人は信用しないんで、コメントいりません。

あと、ここまで褒めまくってなんですけど、「火花」も「劇場」も、最後の方に割と泣ける展開があるんですが、そういうのはあんまり好きじゃないです(←大事なとこじゃん笑)